あいつが「オヤジ」に再会する少し前。
言い出したのは誰だったんだろうか…。
今は思い出せない。
思い出す必要もないんだろうが…。
「父の日?」
6月のある日、十二支野球部の部室で誰かが言った。
「そっか〜明日って父の日だっけ。
子どもの頃とかはよく何か絵を描いたりしたけどな〜。」
「ま、今更オヤジになにか…ってのも気恥ずかしいしな。」
男子高校生の話題にはあまり合わない内容で、その話はすぐに消えるものだった。
そして消える間際。
誰かがあいつに聞いた。
「ところで、猿野くんのお父さんはどんな人っすか?」
ああ、あれは子津だったか。
オレも少し興味があって聞いた。
アイツの事が好きだという自覚はもうあったから。
「ああ?オレの…オヤジ?」
「そうだね〜〜兄ちゃんのお父さんて興味あるし!」
兎丸もその話に便乗してきた。
すると、一瞬猿野の表情が翳る。
「オレのオヤジは…だな。」
「うんうん?」
だけど、次の瞬間には笑って。
「オレのオヤジは…幼稚園にもならない俺をおいて…うぅっ…。
酷いヒト…明美を置いて…!!」
「って、何でドラマ調なんすか??!!」
子津がいつもどおりすばやく突っ込みを入れる。
そのおかげで、アイツはいつもどおりの顔に戻った。
だけど…。
一瞬見えた翳りはまだ消えていなかった。
########
帰り道もアイツの顔が頭から離れなくて。
皆と別れて一人になったあいつを捕まえた。
「おい。」
「え…!?な…っ…犬飼…??!!」
アイツは驚いていた。
そしてオレも驚いていた。
部活でどんなに辛くても、誰に言われても見せたことのない。
辛そうで哀しそうで
憎しみまでも感じそうな涙。
「何…泣いてやがる…。」
「て…テメーには関係ねえ…!!
ほっとけよ!!大体テメーの家はこっから逆だろ!!
さっさと帰りやがれ!!」
今までアイツとは何度もケンカしたし、取っ組み合いだって珍しくなかった。
だけどあんなに必死なのは初めてだった。
だから、どうしても知りたかった。
何がアイツにあんな顔をさせたのか。
キーワードはひとつ。
「お前の親父…。」
「!!」
アイツは凍り付いていた。
ああ、これは。
まだ触れてはいけない場所だったのか。
そう悟った瞬間。
「天国!!」
「あ…。」
いつもあいつの傍にいる「保護者」の声がしたと思った。
気づいたら、オレは。
「保護者」に殴り倒されていた。
「言っとくけど謝らねーぞ。」
「保護者」はオレを睨み付けた。
そうだ、こいつはいつだってアイツを一番に考えてる奴だ。
今オレがアイツを知らずにとんでもなく傷つけたのを、許せないんだろう。
…オレは珍しく素直に反省していた。
「…アンタ無遠慮すぎだろ。
こいつにとって思い出したくもねえことを…無理矢理触るってな…。」
「…悪かった…。」
「保護者」は、オレが素直に謝ったのを見ると激情を抑えた。
そしてアイツの肩を抱くと何も言わずアイツを連れて行った。
あの時の理由をオレは知った。
「あいつらなんて最初からいないもんだと思ってた…。」
思ってたわけじゃねえだろ。
思いたかったんじゃねえのか?
本当はずっと拒みながら求めて 泣いて 叫んで。
あの時だって堪えられずにいたくせに。
張り詰めたままで、今まで、今でも、そしてこれからも?
そんなことさせたくない。オレは、お前に。
オレはお前に何か 出来るのか?
お前がずっと起こしてきた奇跡を オレはお前に与えられるのだろうか?
わからない だけど そうしたい。
だからそうしてやる。
あんな涙は もう 見たくない。
end
さ…沢松の存在薄い…!!沢猿←犬なはずなんですけど…!!
ほとんど犬飼のモノローグですね。
そして結局天国の過去ネタバリバリですみません…。
あまりネタバレにならないようにしたんですが、やっぱりこれってネタバレですよね…。
紫々様、散々お待たせしてこんな結果ですみませんでした。
素敵リクエスト…本当にありがとうございました!!
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